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子育てエッセイ

松井るり子
  岐阜市生まれ。児童文化専攻。文筆業。暮らしや子ども、子育て、絵本についての著書多数。
 たおやかで独創的な目線から書かれた文章は、子育て中のお母さんをほがらかに励ましてくれます。
 この連載は、冊子「こどものまど2012年度」(鈴木出版刊)に掲載されたものです。

連載30 「禁忌を破る」

 小学生の時、「廊下を走らない」等の「学校での10 のやくそく」と、「夜8時までに寝る」等の「家での10のやくそく」の紙が配られて、守れたら○、守れなかったら×をつけて出していました。
 中学生になってから、それらを何の疑いもなく受け入れてきた過去の自分に、腹が立ちました。あちらが勝手に言ってきたことに、なんで黙って従っていたのか。給食を全部食べろと言われるのはほんとうにつらかったし、努力で食べ物の好き嫌いは克服できませんでした。
 我が子の中学(公立)時代は、父親のウールのスーツより高価な、化繊主体の制服を子どもにあつらえなければならないのが嫌でしたし、家で洗うこともできないのは、不潔で不自由だと思っていました。でもこんなところで無駄なエネルギーを費やすのもばかばかしいので、便宜的に従っておきました。高校で土日によその部活の応援に出なければならないのには、なじめませんでした。子どもたちがグレなかったのは、後ろでグレていた親を反面教師にしていたからかも知れません。
 「規則だから」や「前年通り」とは違って、「約束」は神聖なものです。自分から結んだ約束は、ムキになって守って欲しい。親としてのそんな願いは、子どもに伝えるようにしていました。そのために自分たちも、約束を守ることを含めて、正直でいることをめざすように努めました。
 
 昔話によく出てくる禁忌や、約束を守ることについて、どう受け取ったらよいのかも、時々考えました。
 禁忌の玉手箱を開けたら、一挙に300 年の年を取ってしまった浦島太郎。禁忌の部屋を開けたら、自分の姉を含む死体が一杯で、夫の猟奇殺人の証拠を突きつけられてしまった青ひげの妻。どちらも「約束を破った主人公が悪い」というよりは、そんな禁忌をつくった側の問題に、別の人が立ち向かわねばならなかった物語です。
 ギリシア神話では、こんな話もあります。死んでしまった妻を、どうしてもあきらめられないオルフェウスは、黄泉の国に行き、妻を地上に連れ帰らせてほしいと頼みます。その条件として、地上に帰りつくまで振り返るなと言われたのに、もうちょっとというところで振り返ってしまったので、妻を永遠に失いました。
 片山健が絵を描いた日本昔話『みるなのへや』(広松由希子/文 岩崎書店)にも、約束が出てきます。
 ある旅の男が、山で道に迷い、一軒の館にたどりつきました。そこにいた女は男を泊めてくれました。翌朝女は、奥の部屋を決して見ないようにと言い残して出かけていきます。ですが男はがまんができず、その部屋を見てしまいます。
 「みるなの部屋」の中は、青くて広い座敷で、梅の匂いに満ちていました。男は、梅の枝にかかった鳥の巣の、3 つのたまごに手を伸ばし、次々に落として割ってしまいます。たまごからはうぐいすが孵って、ほほほけきょと鳴きながら飛び去りました。男がぼんやりしているところに女が帰り、あのたまごは私の3人の娘で、割れたたまごはもとに戻らないと言います。女はうぐいすになって「娘恋しや、ほほほけきょ」と去り、屋敷も消えます。男は一人、明るい野原に残されました。男の顔が、「心破れた」ような、破綻した感じを伝えてきます。考えなしに手を出した3人娘とその母に対する自分の行為が、とんでもなくひどい乱暴狼藉であったことに気がついて、後悔にさいなまれているように見えます。
 でも片山健の描いた男の顔を見ていると、また別の見方も浮かんできます。普通に山道を歩いていたのでは、決してたどりつけない桃源郷を垣間見て、手を触れることも許された果報者への、祝福の物語かもしれません。まるで、うららかな春の野に寝転んだ男が、うたたねをしている間にうっとりと見た短い夢をことほいでいるような気もしてきます。
 どちらにも読み取れる絵を描く片山健を、すごいなあと思います。おはなしの世界に引き込まれそうな片山健の絵に、不思議な後味を抱いて、しばらくぼんやりしてしまいました。知っていた昔話なのに、絵の描き手の魅力によって、初めて知る話のように思えたのもふしぎでした。そしていろんなふうに読めて、思いをめぐらしたくなる昔話に、ますますひかれます。
 昔話の禁忌や約束についても、破ったら大変な目に遭うぞと戒めるものもあれば、破ったからこそ新しい局面が開けて、幸せをつかむことができたというものもあります。正解は、そのときどきで違うから、自分で考えなさいということでしょうか。  

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